ワイヤ放電加工のシミュレーション

ワイヤ放電加工とは?

 ワイヤ放電加工とは,図1のように,細いワイヤを張って工具電極とし,この工具電極を2次元の輪郭形状を描くように動かすことで,糸のこ盤のように輪郭をくりぬいていく加工法です.



図1 ワイヤ放電加工の原理


ワイヤ放電加工には,以下のような利点があります. 
 ・非接触加工のため,工作物が導電性の材料であれば,硬さによらず加工できる.
 ・工作物や工具電極に作用する力が小さく,微細部品の加工に適している. 
 ・上下のワイヤガイドの相対位置を制御すれば,テーパ形状のような上下異形状加工も行える.

ワイヤに働く力

 ワイヤ放電加工中には,次のような力がワイヤに働きます.これらの力でワイヤが振動することで,加工精度が低くなってしまいます.加工精度向上には,これらの力に対して適切な制御をしなければなりません.
 制御をするには,対象となる力について知る必要があります.そのために,解析・実験を行い,ワイヤに働く力の解明を進めています.
 現在,当研究室ではワイヤに働く電磁力について研究しています.



図2 ワイヤに働く力

放電反力
放電によって急激に気泡が生成し,膨張することで働く力.

静電力
ワイヤと工作物との電位差によって生じる静電引力.

電磁力
ワイヤを流れる電流と,発生する磁束によって生じる力.ワイヤ材質によって異なる.

ワイヤの材質と加工シミュレーション

 ワイヤ放電加工機のワイヤは,通電性の高い黄銅が一般に用いられます.しかし,黄銅には強度が弱いという欠点があります.ワイヤの強度を補うために,鋼の芯の周りに黄銅膜をコーティングしたワイヤなど,複数の物質を利用したワイヤが使われることがあります.鋼の割合を多くすればワイヤの強度は増しますが,通電性は悪くなってしまいます.そのためワイヤの設計時には,含まれる物質の割合を検討しなければなりません.

 また,ワイヤの材質の解析は加工精度向上のためにも必要となります.ワイヤの材質によって流れる電流が異なるため,発生する電磁力も変化します.これらの理由により,適切なワイヤ設計をするには,物質の割合を少しずつ変化させた試作ワイヤを作って試験をしなければなりません.

 当研究室では,ワイヤに働く電磁力のワイヤ材質による違いを解析するシミュレーションを作成しています.このシミュレーションを用いることで,試作用のワイヤを作ることなく,適切なワイヤ設計が行えることが期待されます.