パラレルスパーク放電加工とマルチスパーク放電加工

放電加工における大きな問題として切削加工などに比べ加工速度が遅いことがあります.放電加工の加工速度が遅い原因は,放電がパルス状に行われなければならないことと,一つのパルスで一個所にしか放電ができないという二つの理由に帰着します.放電をパルス状にするのは,休止時間中に直前の放電点でのプラズマを消沈させ,次の放電では他の場所に放電点を移動させるためです.休止時間を短縮すれば加工速度を向上させることができますが,休止時間をある程度以下に短くした場合,極間のプラズマが消沈できず,放電が一個所に集中する問題が生じます.そこで,放電加工の加工速度を向上させる方法として,一つのパルスで複数箇所で放電させる方法が考えられます.

パラレルスパーク放電加工

図3には提案したパラレルスパーク放電回路を示します.この放電回路は,分割した多数電極をお互いに絶縁し,それぞれがダイオード(D1D2,…Dn)を通して主電源と接続されます.また,各電極と工作物との間にはコンデンサ(C1C2,…Cn)が並列に挿入されています.トランジスタをオンにすることにより一回の充電周期が始まります.主電源の電圧が印加され,ダイオードを介して各電極に接続しているコンデンサに電荷がチャージされ,各電極と工作物の極間電圧が電源電圧にまで立ち上がります.その状態で,ある一つの電極と工作物の間に放電が発生した場合,その電極と工作物の極間電圧は下がります.それに伴い主電源側の電圧も下がりますが,他の電極に印加されている電圧については,ダイオードが逆方向にバイアスされているため,その電極で放電が生じるまで電源電圧値を維持します.これにより,理想的には一回のコンデンサの充電周期の間に,分割した電極の本数と同じ回数の放電が同時にあるいはカスケード的に生じます.従って,一回のコンデンサの充電周期,あるいは一回のトランジスタのスイッチング周期の間に一回しか放電が生じない従来の放電加工に比べて大幅な加工速度の向上が期待できます.

マルチスパーク放電加工

 提案したマルチスパーク放電加工の回路を図4に示す.一方の電極と工作物,他方の電極,パルス電源を直列に接続するものです.これにより,一つの放電パルスで2電極と工作物との二つの極間で同時に放電を発生することができます.両電極側の加工速度が等しくなるように極性切り替え回路を入れています.この放電回路を使うことにより,加工速度が従来より約1.3倍までに向上できます.