放電加工アークプラズマの分光分析

          放電加工アークプラズマの分光分析の目的

 放電加工は,放電によって電極と工作物との間に発生させるアークプラズマによる熱加工です.そのため,アークプラズマについて知ることは,加工現象の解明や加工特性向上のためにたいへん重要です.この研究では,アークプラズマから放射される光を分光分析することによって,アークプラズマ内における温度分布や電極材料の蒸気密度比などを測定しています.また,高速度ビデオカメラを用いてプラズマを撮影を行っています.そして,得られた測定結果から放電加工現象のメカニズムを詳しく解明することが主な目的です.解明された事実は,放電加工のシミュレーションをよりリアルにするための基盤となるデータとしても利用されます.

          分光測定の原理と測定方法

プラズマ温度

 
プラズマ温度は,相対強度法を用いて求めます.相対強度法とは,波長の異なる,複数の放射光の間の放射強度の比を用いて温度を求める方法です.プラズマ温度は次式により求めることができます.


   (1)

ここで,エネルギー準位mから準位lへの遷移に伴って放出される,振動数νmの線スペクトルの放射強度をImとします.式(1)において,放射強度I mI kを除くすべてのパラメータは既知であり,ここで,放射強度比I k/I mは,図1に示す実験装置を用いて測定することができます.また,分岐型光ファイバーや,二台の分光器,光電子増倍管を用いることで,二つの異なる波長の放射強度を同時に測定することができます.

 蒸気密度比

蒸気密度比はプラズマ温度T およびそのときの状態和U (T )から求まります.UT )は温度T から求めます.蒸気密度比は以下の式から求まります.

   (2)

これは基準点の蒸気密度N0と測定点での蒸気密度Nmとの比です.すなわち,基準点と測定点を半径方向に2点定めてそれぞれ測定する必要があります.
   

         放電加工アークプラズマの分光分析により得られた知見

@     プラズマ内半径方向温度分布

2に,プラズマ内半径方向温度分布の測定結果を示します.この結果から,プラズマ温度は,電極の中心部分で約60007000Kであることが分かります.

A     カーボン付着量と銅蒸気密度比

3に,カーボン付着量と銅蒸気密度比の測定結果を示します.この結果から,工具電極表面からの銅蒸気の蒸発は,カーボン皮膜が厚いほど小さくなることが分かります.このことから,カーボン皮膜が,低消耗加工を可能にしていることが分かります.

B     プラズマ温度と加工雰囲気

図4に,プラズマ温度と加工雰囲気中の酸素濃度についての測定結果を示します.この結果から,加工雰囲気中の酸素濃度が大きくなると,酸化反応によってプラズマ温度が上昇することが分かります.