超高速気中放電加工

 近年,「高速加工」という言葉を見聞きすることが多くなってきました.高速切削などはその代表と言えるでしょう.一方,放電加工はというと・・・悲しいかな加工速度の遅いことで有名です.しかし,高精度な加工が可能であることから,高い精度を要求される金型などには欠くことのできない加工法です.ただし,将来的に「放電加工は高精度,高硬度材の加工が可能,微細加工などの優位性によって,なくなることはないだろう.」と言い切れるでしょうか?

 今日,高速切削の進歩は目覚ましく放電加工の領域にまで進出してきています.それなら,放電加工だって負けてはいられません.「遅い!遅い!」と言われ続けた放電加工を高速化してやろうじゃないですか!どうせやるなら,目標は”加工業界最速!”



気中放電加工って何?

まず,気中放電加工とはパイプ電極を用いて,従来の液中加工で加工液が果たす加工屑排出及び極間冷却の役割を,パイプ電極内部から供給される高速気体流に果たさせることにより,大気中での放電加工を可能にしたものです.気中放電加工では,この気体流に種々の気体を用いることで様々な加工特性を得ることができます.


酸素を使って高速化〜そして暴走!!

気中放電加工においては極間に投入する単位時間あたりの電気エネルギーを増加させていくと,ある加工条件以上では酸化反応が連続的に生じ飛躍的に加工速度が増加する暴走状態に陥ることが明らかになっています.この暴走状態では電極面全体がアークプラズマ化し,ギャップが広がるため加工形状が制御不能となります.しかし,暴走状態に至る前に暴走状態への遷移領域,すなわち準暴走状態が存在する事も明らかにされており,この準暴走状態では加工は放電痕の累積で進展するため,加工形状の制御が可能です.


暴走状態 動画   準暴走状態 動画


逆転の発想〜吹き出しから吸い込みへ!!

従来の気中放電加工ではパイプ工具電極内部から放電が生じる極間に気体流を吹き出すため,パイプの中心から半径方向に気体が流れることになります.そのため,下図(左)のようにプラズマが気体流と共にパイプの外側へと広がって,エッジ部にプラズマが拡大して放電が生じることによりエッジ部にはだれが生じるという問題があった.そこで,(右)のように周囲からパイプ工具電極内部への気体流の流れを形成させることで、プラズマの外側への広がりを抑えることができ,形状精度を向上させることが可能であると考えられます.また,加工屑の周囲への飛散が無いため,未加工部へのダメージが少ない,加工屑及び気体の回収が容易なため環境に優しいといった利点もあると考えられます。




   



これらの方法を用いてポケット加工を行ったときの工作物の写真です。吸い込み法を用いることで
きれいなエッジが得られていることがわかります。